2009年10月1日施行

第8条

見せる走り方と動態視力


コーナリングラインが見えていますか? [ファルケンアゼニス試乗会]



[ドライビングの資質]



 スピードレンジが上がれば迫力が出る。目の前を通過する速度が100km/hの場合と200km/hの場合では感じる迫力は段違いだ。コーナリングスピードの限界が100km/hのコーナーを想定してみよう。200km/hに到達したクルマは100km/hまで減速しなければならないから、コーナー進入手前でフルブレーキングする必要がある。クルマはノーズダイブし、ドライバーがギリギリまでブレーキングを我慢すればタイヤからスキール音も出る。これだけで充分な迫力。では100km/hしか出ないクルマといえば、そのままアクセル全開でステアリングを切り込んでゆくだけ。サスペンションとタイヤを100km/hのコーナリングに耐えるように仕上げておけばよい。残念ながらこのようなコーナーのカッコよさではハイパワー車が格上だ。ところが、カッコ悪くて恥をかくのもハイパワー車である。スピードの恐怖が強かったり、ブレーキングテクニックが未熟だと100km/hでコーナリングできるコーナーとわかっていても100km/h未満まで減速してしまい、コーナー入口で100km/hしか出ないクルマにコーナーのインを差されて抜かれてしまうことが多々ある。これはシロウト目から見ても、テクニックの未熟さがバレてしまう例。サーキット1周のラップタイムで考えたら、100km/hしか出ないクルマを圧倒するに決まっているが、コーナーで見比べられたらテクニックがバレバレなのがハイパワー車の泣き所でもある。ビギナーに対して最初からハイパワー車を勧められない理由は、危険な事に加えてカッコ悪いからでもある。
「ならばアンダーパワーのクルマからはじめるか」と考えた素直な方のために、とっておきのテクニックを教えよう。最も基本的なコーナリングライン。S字コーナーやクランクコーナーのようにコーナリング方向が逆転するコーナーならば必ず直線的に通過する方がコーナリングスピード(通過速度)が速く、コーナーのイン側を2回通ることになる。普通のコーナーなら1箇所だけイン側を通ればコーナリング半径がコーナーのR半径よりも大きくなり、近回りのイン側を走り続けるよりもコーナリングスピードが高くなる。その結果としてアウトインアウトのコーナリングラインがコーナー通過時間を短縮できる事は一般的によく知られている。ストリートならガードレールぎりぎりや壁ぎりぎり、サーキットであれば赤と白にペイントされた縁石(コースとエスケープゾーンの分かれ目)がある。このイン側につく場所をクリッピングポイント(以下CPという)と呼び、コーナリングテクニックの基本を押さえるには重要なポイントである。ここをきっちり押さえると見た目がカッコよくなる。それはコーナリングスピードが上がって見た目にも速いし、CPが一般的に知られているため、テクニックのチェックポイントになるためだ。つまりCPは、クリッピングポイントであると同時にコーナリングの基本テクニックを知るチェックポイント(CP)でもある。とくにストリートの場合などは、誰にでもできる事ではないだけに、見た目に迫力もある。サーキットでもCP付近の縁石にタイヤをのせながらインリフトぎみに走行すると見た目に迫力があり、テクニック的にもインカットで速く走れるものだ。そのために必要な資質は、ストリートにもサーキットにも共通する動態視力で、自分のクルマが通過するべきラインが見えていなければ出来ないドライビングテクニックなのだ。これが出来るだけで、パワーのないクルマでも十分カッコよく見せることができる。
 ついでに動態視力を鍛える方法も伝授しよう。誰でも出来る簡単なこと。普段から対向車のナンバーを読むクセをつけること。特に歩行者のいない自動車専用道路で、制限速度が高めで中央分離帯のないところが有効。80km/h制限の道路なら、対向車とすれ違う速度は倍の160km/h。この状況下で素早く対向車のナンバーを読み取る。わき見運転になるようでは問題外だが、歩行者や障害物、標識などを見逃すことなく安全に運転しながら、対向車のナンバーが確実に読み取れるようになれば、ドライビングに重要な動態視力がかなり磨かれているはずである。しかも日常的に出来て、安全運転(わき見ではなく、常に周りの状況に目線を配れるという意味で)にも役にたつ。安全運転講習会で映画を見た方も多いと思うが、ベテランドライバーほどあちこち(歩行者、標識、信号、路面状況、対向車など)に素早く目線を配ることで状況判断をしている。運転免許の更新に動態視力検査がある事にも納得がいくね。
 ここで書くには早過ぎるかもしれないが、レースに参加すると動態視力は絶対的なものになる。限界走行を繰り返しながら、前後左右のクルマに気を配る。チャンスがあれば追い越しを仕掛け、追い抜いてこようとするライバルには隙を見せてはならない。動態視力が優れていなければレースにならないと言っても過言ではないだろう。筆者の言う「ドライビング」に優れたものが事故を起こしにくい理由のひとつである。ストリートでもサーキットでも、事故を起こすドライバー、クラッシュするドライバーの評価は間違いなく低い。確かに回避不能な事態で事故やクラッシュに巻き込まれることもある。しかし多くの場合は「ドライビング」によって回避できるのだ。動態視力が優れていれば、誰よりも早く危険な状況を察知して、的確な回避行動を取れるはずなのである。だから「ドライビング」を極めたければ、認められたければ、絶対に事故ってはいけない。クラッシュしてはいけない。



ドラテク皆伝第7条

ドラテク皆伝第9条

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